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短編集はタイトルも楽しもう【今週読んだ小説】

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小説を読んでいると、自分でも小説を書きたくなるのは私だけだろうか。
そして、小説を書くようになると、小説を読む目線も変わったりする。
文章や構成を気にするのはもちろん、タイトルをつけた理由や、作者の癖を分析するようになるのだ。
今回の感想は、そういう視点が多めになったので、冒頭で先に断っておいた。
 
今週の2冊

現代罪悪集

新書みたいなタイトルだが小説、それも短編集だ。
7つの短編が収録されている。
タイトルから察せられるように、明るい話ではない。
しかし鬱々としているわけではなく、淡々と進んでいく展開に、どこか重さを感じる程度だ
重苦しくはなく、単に重たいだけ。
あくまでも「罪悪」であり「犯罪」とは違うということだ。
 
藤谷治の小説を読むのはこれが3冊目だが、雰囲気は以前読んだ「いつか棺桶はやってくる」に似ているだろうか
特に最初の短編「亡失」がまさにそうだった。
導入は世間でよくありそうな日常なのに、ふとした不思議が現れて、それを辿るうちにどんどん独特で奇妙な方向に引き込まれていく。
短編集の楽しみの一つには、それぞれのタイトルがある。
統一性のある短編集だと、それなりにこだわったタイトルがそれぞれにつけられているものだ。
本書もそうだと思われる。
収録されてる7つの短編のタイトルは以下の通り。
  • 亡失
  • 等閑
  • 匿名
  • 紐帯
  • 雷同
  • 黙過
  • 増益
2文字の熟語で統一されつつ、それぞれが絶妙に日常で使わない単語だ。
(「匿名」はそうでもないが)
中でも気に入っているのは「亡失」。
あえて「忘失」ではなく「亡失」にした理由は、内容を読めばすぐに理解できた。
理解できたから「上手いなあ」と思える。

わんダフル・デイズ

パッと見、可愛らしい表紙とタイトルだが、表紙イラストの犬はよく見ると顔が妙にリアルで、それに気づくともう可愛くは見れなくなる。
勝手な推測だが、盲導犬は愛くるしいペットとは違うことを強調したかったのではないだろうか。
そう、これは盲導犬をテーマにした小説だ。
盲導犬が関わるちょっとした謎を盲導犬の訓練士が解決していく。
ライトミステリといったところだろうか。
話の流れは「誘拐屋のエチケット」に似ている。
まあ、同じ作者なので当然かもしれないが、1つ1つの短編が独立しつつ、それぞれの登場人物が後になって関わってきたり、ちょっとした伏線が最後に回収される流れがまさにそうだ。
同じような構成でもテーマが違えば全く別物の作品に仕上げられるということか。
プロが何作も作れる理由の一つはこれかもしれない。
いくつかの型を持っていて、そこに題材を当てはめていく。
そんな業も感じることができた。