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物語の演出として「ピンチ」をいかに扱うか【今週読んだ小説】

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今週は実家に帰っていたので、実家に置きっぱなしの過去に買った手持ちの小説から目ぼしいものを読んだ。
偶然にも、読んだ3冊全てに「ピンチ」があった。
いや、ピンチはたいていの作品にある。
たまたま、今回読んだ小説はそれが際立っていただけなのだ。
それらのピンチをいかにして乗り越えるかが物語を盛り上げる。
何も起こらないストーリーはつまらないということだ。
ではピンチだらけの物語なら面白いのか?
それを考えさせられた週だった。
 
今週の3冊

探偵伯爵と僕

タイトルの通り、探偵伯爵と出会った僕の物語だ。
前に読んでいた小説が文字多めだったので、会話が多くてサクサクと楽しめた。
僕と伯爵の会話が愉快で小気味いい。
しばらくは僕と伯爵のたわいもない会話がメインなのだが、やがて僕の友達が失踪する事件が起きる。
おそらく、多くの読者が伯爵を怪しむ。
どこかで僕が伯爵に騙されているのではないかと感じつつも、どこかでそうであって欲しくないと願ってしまう。
伯爵というキャラクターにはそういう魅力がある。
とにかく伯爵が神出鬼没なのだが、それゆえに登場した時に嬉しくなってしまうのだ。
僕が子供ゆえに陥るピンチ、そこに颯爽と登場する伯爵、カッコいい。
 
森博嗣の作品、特にシリーズ外の単発作品ではお馴染みの、幻想的でありながら妙に現実感のある結末が用意されている。
この結末は、私の頭からすっぽり抜けていた。
もしも覚えたまま読んでいたら、何か違って見えるものがあったのだろうか。

思春期ボーイズ×ガールズ戦争

タイトルだけならなくもないが、表紙イラストを見れば一発でわかる通りラノベ、「ライトノベル」である。
第20回電撃小説大賞で銀賞に輝いた作品だ。

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当時の私は帯の「銀賞」の文字を見て、大賞は有名になる作品が多いけど銀賞となるとどうなのだろう、大賞と比べるとやはり何か劣るところがあるのだろうか、それとも銀賞になるくらいだから十分に作品としての質が高くて面白いのだろうか、と色々と気になって、あえて銀賞の作品を購入した。
 
しかし、帯に堂々と「銀賞」と書くことに宣伝効果があるのかは微妙なところだ。
売れるのかもしれないが、読む側としては「大賞を取れなかった作品」というファーストインプレッションがつきまとう。
面白いところではなく、微妙なところを探しながら読んでしまう。
 
まあ、そんな所感を抜きにしても、この作品にはピンチが多い。
常に「このピンチをどう切り抜けるのか」とハラハラする反面、読んでいて疲れることもある。
ピンチを切り抜けた安心感の余韻に浸る暇もなく、次のピンチがやってくるからだ。
ただ、そのピンチの原因も、ピンチを超えた先にある目的も、とにかく馬鹿馬鹿しいものなので(当人は至って真剣だが)、あえてそのギャップを作り出しているのかもしれない。

雀蜂

雀蜂を利用して命を狙われている。
物語は、一人の男が雀蜂だらけの屋敷の中、1回でも刺されれば命を落とすという状況でどうにか難を逃れようとする。
つまり、常にスズメバチに襲われるピンチと隣り合わせなのだ。
 
私はこの小説の結末を何となく覚えていたので、それを知った上で読むことができた。
ところで、裏表紙のあらすじの文末に
最後明らかになる驚愕の真実。ラスト25ページのどんでん返しは、まさに予測不能!
とある。
驚愕の真実も、どんでん返しも、確かにあった。
そしてそれは予測不能だ。
しかし、それが思わず拍手を送りたくなるような部類かというと、そうではない。
ヌルッとした、どこか陰鬱な真実だ。
あってもなくても、それまでの面白さにあまり影響しない、どこか気分が悪い真実……
8年ほど前の作品だが、確か当時のAmazonかどこかのレビューでは、このラストの結末に否定的な意見が多かった気がする。
どうしてこんな結末を用意したのか考えてみると、私には意地悪にしか思えない。
物語は雀蜂からどうにか逃げようとする主人公の奮闘が大部分を占める。
それを読む読者としては、そんな主人公を応援するわけだ。
そうしてすっかり主人公に感情移入したところで、問題の結末がやってくる。
どこからともなく「ざまあみろ」と言われたような気分になれることだろう。
そういう意味で、いいエンターテイメントだと思う。