ビルドンブング

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印象が薄くても面白い小説と印象が強いのに手が止まる小説【今週読んだ小説】

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なんとなく文章のテンポが好きだったり、さりげない表現が印象的だったりで、物語が面白いわけでもないのに面白く読める小説がある。
逆に、物語は切羽詰まった展開、手に汗握るギリギリの戦いと、見どころたっぷりなのに、ちょっとした表現に引っかかったりで、ついに途中で読むのをやめてしまう小説もある。
しかし私が面白いと感じた小説をそうとは感じず、私が途中で読むのをやめた小説を絶賛する人もいる。
それはどちらも間違っていない。
結局は好みの話なのだろう。
 
今週の2冊

すしそばてんぷら

このタイトルは、つい手に取ってしまう。
「面白そう」ではあるが、それ以上に「美味しそう」だ。
そして手に取ってカバーイラストを見てみれば、タイトルの寿司、そば、天ぷら。
その上を嬉しそうに駆け抜ける女の子。
この女の子が主人公だ。
女の子と言いつつ、二十歳を過ぎて働いている立派な大人女子である。
そんな大人女子がちょっとしたきっかけで江戸料理の魅力にハマっていく物語だ。
 
この本を読むまで江戸料理を知らなかった。
要は郷土料理の一種で、江戸の郷土料理だから江戸料理、らしい。
寿司やそば、天ぷらを江戸料理として区別する必要がないほど、どれも一般的に浸透しているメジャー料理だ。
だが、江戸料理のそれらと一般的なそれらは違うらしい。
そういう風に描写されていた。
実際に江戸料理店として楽しんだことがないので、実際のところどれほど違うのかはわからない。
 
実にゆったりした物語で、大きな事件が起きることもなく緩やかに進む。
普通なら飽きてしまいそうなテンポだが、1話30ページほどの短編が9話という構成のため、1話が短く、飽きるより先に読めてしまうから止まらなかった。
何が面白いのかと聞かれると困ってしまうが、思うに、何か起こりそうで起こらないという演出が入っている。
「これは雲行きが怪しくなってきたぞ」と感じさせる伏線めいたものが現れるのだが、何も起こらない。
「何か起きそう!」という状態をさりげなく読者に維持させるようなテクニックが使われている。
というのはただの私の買い被りだろうか……

いつか棺桶はやってくる

予想以上に読むのに時間がかかった。
本の厚みはごく一般的な程度なのに、とにかく文字が多い、というか改行が少ない。
ページをめくれば見開きに文字がびっしりということが珍しくなかった。
もしもこの作者の作品を読むのが初めてだったら、投げ出していたかもしれない。
それでも読み終えたのは、作者の藤谷治の小説が2冊目だったからで、作品の雰囲気が先週、最初に読んだ「マリッジ:インポッシブル」とあまりに違っていたからだ。
面白いのが、これだけ分量が多いのに、作中時間は木曜日の夜から日曜日の夜、つまり3日間の出来事いうこと。
まず、木曜日の夜に主人公の妻が消える。
妻の行方を探す冒険だ。
作中でもまるでRPGのように、と例えられているのだが、道中に色々なイベントや登場人物が登場する展開は、まさにゲームを思わせる。
明確なラスボスの立ち位置のキャラクターがいて、そこを目指して進む。
しかし舞台は現実世界、もちろん戦闘はない。
ゲームのような明るい物語かというと、そうでもない。
だが暗くもない。
自分を卑下しながらも他人とは違う自分を意識していた主人公が、妻を探す過程で今までの自分がいかに不甲斐なかったかを自覚しながら自由を実感する物語、なのだろうか。
タイトルの意味するところも、読んでいれば自然にわかるし納得する。
 
もう少し、藤谷治の小説を何冊か読んでみようと思う。