ビルドンブング

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この著者の小説を他にも読みたいと思える出会いが嬉しい【今週読んだ小説】

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今まで読んだことのない著者の小説を読むときは、いつも不安だ。
果たして楽しめるだろうか、自分の好みに合っているだろうか……
感覚としては五分五分だ。
出だしから何となく「合わないなぁ」と感じつつも最初の章までは読んでみるのだが、結局「これは厳しい」と読むのをやめて別の小説を手に取ることもある。
逆に、読み進めるうちに何の不安もなくなり、没頭して最後まで読み終える時もある。
そうなれば、同じ著者の小説をもう一冊読んでみる。
それを続けて3冊ほど同じ著者の小説を読めば、もうお気に入りだ。
そういう意味では、今週は2冊しか読めてないものの、収穫は大きかった。
1冊は初めて読む著者だったが「同じ著者のをまた読もう」と思えたし、もう1冊はその著者の3冊目、しかも面白かったので、お気に入りとなった。
 
今週の2冊

宝探しトラジェディー

後から調べたのだが、タイトルになっている「トラジェディー」とは「悲劇」という意味だ。
実際、読み始めてすぐにこの物語は「ただの悲劇」だと宣言される。
 
内容としてはピンチと逆転の繰り返しとなっていて、飽きずに読み進めることができる。
単調ではあるものの、逆転があると確信しているので「どうやってこのピンチを乗り越えるのだろう」とワクワクしながら読み進めることができる。
語り部にもなっている主人公は11歳の小学生。
「子供が何をわかったようなことを」と、モノローグが不愉快に感じられるところが多々あるのだが、それ以上に人を不愉快にさせる主人公の父親がいるので、相対的に緩和される。
それが意図したものかどうかは定かではないものの、結果的にうまく噛み合っていて、不愉快なんだけどついつい読んでしまう文章となっていた。
 
構造としては息子vs父親の対立構造。
自由で身勝手な父親と、そんな父親のせいで辛い思いをしてきた息子。
親子で争うことを指して「悲劇」としているのか。
まあ、他にも悲劇的な出来事は作中にいくつもあるので、
先に述べた様々なピンチも、瞬間的な悲劇と呼べなくもないので、そういった意味合いも込めて悲劇を強調しているのかもしれない。
まあ、悲劇だからと言って最後がバッドエンドとは限らず、ハッピーエンドと呼べるかどうかは受け取り方次第だが、暗い雰囲気は一切なかった。
それこそ、タイトルにある「宝探し」から受け取れる明るいイメージだ。
作中でも「冒険」がキーワードになっている。
小学生が宝探しの冒険、と言い表せば勇気と希望に満ちた物語に感じるだろう。
その側面も持ち合わせていて、絶妙なバランスだった。
文章も読みやすく、この作者の小説が他にもあれば読んでみようと思う。

スマイルメイカー

そのタクシーを降りる客は漏れなく笑顔になる——
そんな「スマイルタクシー」のお話。
というようなあらすじを知って、勝手に「スマイルタクシー」を舞台にした短編集をイメージしていたのだが、がっつり1つの長編だった。
読み終わってから裏表紙に長編と記載されていたので、単に見逃していただけである。
以前に読んだ同じ著者の「誘拐屋のエチケット」が連作短編集だったので、そのイメージが強かったのだろう。
どちらも黄色が目立つカバーという共通点もあった。
 
3人のタクシー運転手の視点で物語は進んでいく。
初めは無関係だと思われたそれぞれの運転手と客が実は……
という、
序盤からいきなり不可思議な状況に陥る上、なにぶん語り口調が滑らかで、読み始めたらその勢いで休むことなく一晩で読み終えてしまった。
 
中盤でちょっとした種明かしのような展開もありつつ、最後の最後でも、ちょっとしたことがだ「えっ!?」となる事実まであって、最後までたっぷり楽しませてもらった。
 
スマイルタクシーという舞台設定が面白く、他にもいろいろできそうなので、シリーズ化したりちょっとした短編集があればいいのに、と思ってしまった。